笹川保健財団「北欧研修 2023」参加~北欧研修から感じること~

笹川保健財団 北欧研修2023 美しい北欧の国々。

 

はじめての北欧の旅。私にとって貴重な経験でした。北欧研修レポートをご覧ください。

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       自立・平等/北欧研修から学ぶ予防の大切さ    

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            「私たちが現実をどのように感じ、どのように責任をもって行動していくか」

北欧の人々の感性を受け、生き方や文化などの幅広い見識を得ることは、私に新たな生き方や行動を示唆します。地域社会の課題を多角的に考察し、より普遍的な価値である自立や平等を追求しながら予防を再考することは、日々の解決力の向上と通じて、私たちの責任のある行動にも結びつきます。北欧研修(先駆的な保健福祉制度)の体験は、地域社会や在宅看護の新しい姿、私の固定概念に深い洞察を示してくれるものです。日々の課題解決の糸口をもとめて、この貴重な研修に参加いたしました。

 

『地域における問題解決支援と予防介入』

北欧にも、ひとりで問題を解決する「文化」があり、「自立」という意味が深く問われています。この地域社会のキーワードを考えるうえで、フィンランド発の出産・育児支援制度「ネウボラ」や保護シェルターはとても興味深いものでした。「ネウボラ」では、妊娠期の早い段階から学童期までを専門スタッフが対応していますが、そのサービスは、地域住民に平等に提供され、とくに悩みや問題がある家庭だけのサービスではありません。保護シェルターも、一見して、虐待などが見受けられないケースにも潜在的な要因があるという視点を重視し、時間をかけてゆっくりと社会全体で見つけ出していきます。両制度に共通することは、問題解決への予防的な自立支援プログラムであり、住民全体に対して平等な支援介入を実践していることです。自立が決してひとりという立場にならないように、自立心が孤立に繋がることを未然に防止する北欧独自の「自立」への取り組みを学ぶことが出来ました。そして、日本の地域社会、私たちの在宅看護に組み込むことの必要性にも気づきます。

 いま、私たちの地域社会では、自立とひとり(孤独)が交錯するようなケースも見受けられ、身近な場面でも孤独による事態悪化、手遅れになるケースが問題となっています。このような予兆を日々の業務で事前察知する訪問看護師は、身近な相談カウンセラーとして、専門的なアドバイスを早い段階で行うことが出来ます。在宅看護センター北九州では、訪問看護師が地域住民からの信頼を得ながら、地域保健ネットワークの核に位置づけることを地域社会に提案しています。「誰もがいつまでも自分らしく生きる地域社会」を創るためにも、予防的で平等感(安心感)を感じる仕組みを整えていくことが早急に必要です。在宅看護のより踏み込んだ前段階の自立支援を展開するため、地域の保健師や民生委員、社会福祉協議会とも積極的に連携し、早期解決への手法をさらに展開していきたいと思います。

 

『問題解決に向けた地域社会との取り組み』

フィンランドでは、様々な福祉活動が積極的に実施されています。問題解決のためには、当事者が情報内容を正確に把握する必要があり、地域社会で何が起きているかを知りたがる住民の関心度がキーポイントでした。フィンランド健康福祉研究所(THL)では、健康や福祉に関する情報(例えば、家庭内暴力や虐待などの情報)を広く、地域社会に公表し、住民に情報提供しているということでした。大切な個人情報の保護を行いながら、多角的な情報分析や正確なエヴィデンスをしっかりと積み上げ、オープンな情報発信を地域社会に行っています。また、このような成果を地域社会にフィードバックし、実りある仕組みを創るまで、協調性や忍耐が大切であるということも学びました。THLの活動プログラムには、警察官、消防士、あるいは牧師にも対象者を伸ばし、さらにそれを広げるために地域研修を進めているということでした。(小さな町(5万人)でも1千人の参加者が地域研修セミナーに参加しています。)そこには、地道な活動を続けながら、見るものの責任、社会参加への責任を考えることが大切ということに気づきます。厳しい問題や複雑な事象を見るだけ、無関心でいる社会が良いのか、見るもの責任、見たものへの行動が問われている社会が良いのかは時代や地域によっても様々な様子を呈します。日本は、さらに少子高齢化が進み、国力も落ち、地域全体で考えていく仕組みが必要になってきます。幸いにも北欧のような先駆的な取り組みをもとに、北欧諸国が制度設計をするときに、悩み、苦しんだこと、工夫したことはとても良い事例であることに気づきます。

私たちの地域プロジェクトの成功は、決して大きな取り組みから発するものではなく、小さなことの積み上げです。在宅看護の活動も、小さな街の小さな取り組みから、つまり日頃の手の届く事案から少しずつ始めています。訪問看護師は、日々蓄積される地域の原データを個人情報として大切に保管しています。しかしながら、現状においては、この情報の多くが地域の問題解決のために十分に活用されているとは言えず、未利用な状態も懸念されています。北九州学術研究都市内にある在宅看護センター北九州は、同研究都市内に存する九州工業大学大学院の学術コンサルティング制度を活用し、看護データの集約化や簡素化を行い、日々の訪問看護業務の逓減や再構築などを検討しています。具体的な一例は、データ入力やデータ管理の確実な処理対応を通じて日々の労働時間枠を創出し、確かな情報管理による保健データをもとに、予防活動を展開していくというものです。情報発信においては、地域FMラジオ局の健康番組(弊社企画)も利用しながら、また社会福祉協議会の地域セミナーとの連携もさらに深めていきます。看護データの集約化や解析は、訪問看護師として「見たものの責任」であり、協力機関とともに高度処理(AI化等)をさらに推進していきます。もう一つの柱である訪問看護師からの情報発信に関しても、地域社会に対しての責任ある行動として、身近なところから積極的に取り組んでいきたいと思います。

 

『問題解決の研究的視点とアイデア』

デンマークの施設見学では、患者様などの視認や動線に配慮した斬新さを感じ、単調さを避けた多様な曲線、階段や廊下にも数字を付けることなど、日常生活の療養支援が充実しています。認知症に対応した音声指示付きのコップにも、機能面で斬新なアイデアが盛り込まれており、そこにも楽しさや感性を感じます。心地よい施設内の工夫は、患者様やスタッフでなく、ご家族や地域の人々を楽しく、幸せ(幸福)にすることに気づきます。斬新な福祉用具も、利用される患者様だけではなく、設計者や見学者にも幸せ(幸福)や満足感が感じられることが重要です。働くスタッフには、フラットな関係が創り出されており、医師や看護師、介護士にも、徹底されているということでした。医師は、看護師や介護士に過剰な指示を出さずに信頼して任せているということです。働くスタッフ間においても、医師や看護師、介護士が、平等な達成感や幸せ(幸福)を感じることが必要であることを学びました。

私も在宅看護の日常業務において、問題解決に向けて様々な取り組みを行っていますが、キーポイントは事実を単純に見ないという姿勢です。つまり、事実を単純で単発な事象としてとらえるだけでなく、全ての人が幸せ(幸福)になるという視点を議論の中心に据えるということです。組織内にこのような社会的なルールを創ると、アイデアや研究テーマを絞り込んで行く過程でも、意見の激しい衝突や難しい調整局面が回避できます。全ての人が幸せ(幸福)になる、満足感を得るという視点を議論の中心に据えると、「自立」・「平等」という調和感がスタッフ間にも自然と熟成されます。在宅看護の全体的な組織運営においては、危機回避という意味において、予防概念に通じるものがあり、今後の地域づくりにおいてもこの貴重な経験(感覚)を大切にしていきたいと思います。

 

『実践への意思表明と今後の展望』

今回の北欧研修では、「自立」や「平等」という言葉が頻繁に、また責任をもって使われていました。また、見るものの責任、見たものへの行動、社会的予防の大切さも問われていると感じました。私たちの在宅看護には、地域社会から目を背けない「見るものの責任」があり、「無関心」という意識を地域社会に根付かせない大切な役割もあります。フィンランドには女性の政治家がたくさんおられますが、多くの女性政治家は日常の小さな問題意識や自立心のなかから生まれてきたということです。在宅看護や訪問看護師にとっても問題意識を常に持ち続け、小さなことから自立的に実践することが大切です。このような小さな取り組みは、個々の感性などに由来するもので、楽しさや満足感など、心に直結するものから始まります。北欧諸国には自然に漂う心地よさや安心感、楽しさがありました。私は、組織や地域社会などには、この心地よさや安心感、楽しさを求めていると感じます。そのためには、スタッフ全員がお互いの幸せを追い求め、地域社会に広く小さな幸せ(幸福感)を伝えることが大切であると確信しています。

在宅看護センター北九州は、地域社会の一員として、これらの目標に向かい、スタッフとともに、信頼される日本財団在宅看護センターを未来の地域社会に築き上げて参りたいと思います。